2008.05.02

カルテ一部不開示に損害賠償が認められた事案

 薬害肝炎訴訟において給付金が受領できるか、ポイントはカルテ(医療記録)の存在です。カルテが存在している医療機関は、少なくとも患者から問い合わせがあった場合には、誠実にカルテを調査して正確に回答する義務があるというべきです。
 薬害肝炎弁護団の問い合わせに「使用していない」と回答しておきながら、1年後に「精査したところ使用が確認できた」と再回答してきた医療機関もありましたが、やはり問題というべきでしょう。

 この点、医療機関の杜撰なカルテ管理体制が問われた判決が出ています。
 患者側がカルテ隠匿改ざんを主張した事案について、医療機関の損害賠償責任を認めた平成20年2月21日大阪地裁判決です。隠匿改ざん自体は認めませんでしたが、証拠保全手続きおよびその後の訴訟手続きの中で、一部医療記録を患者に開示しなかった以上、債務不履行責任は免れないと判示しています。
 なお、医療機関は独立行政法人(以前の国立大学病院)ですから、その問われた責任は大きいというべきでしょう。


 被告において,本件入院カルテ1ないし6及び本件手術関連記録1を隠匿して原告に開示しないのではなく,被告主張のとおり,被告において本件入院カルテ1ないし6及び本件手術関連記録1を紛失したために原告に開示できなかったとしても,被告は,本件入院カルテ1ないし6及び本件手術関連記録1を原告に開示できなかったのであるから,診療契約上のてん末報告義務違反として債務不履行責任を免れない。
 以上によれば,被告には,本件入院カルテ1ないし6及び本件手術関連記録1を原告に開示できなかった限度で,診療契約上のてん末報告義務違反として債務不履行責任を負うこととなる。


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2008.04.28

チーム医療における総責任者の説明義務

 最高裁判所第一小法廷が平成20年4月24日、チーム医療として手術が行われた場合の総責任者の説明義務違反について判断しました。
 チーム医療の総責任者が常に自ら患者に説明しなければいけないものではなく、主治医が十分な知識・経験を有していれば、主治医に説明をゆだねて構わないとの判断です。
 医者だけではなく弁護士がチームとして訴訟を行うことも増えていますが(薬害肝炎などの集団訴訟などがまさにそうです)、常に、代表や事務局長が、個別原告に対して説明を行わないといけないというのは非現実的。実際は担当弁護士が担当原告に対する説明等を行います。その意味でも常識的な判断といえるでしょう。
 もっとも、「主治医の説明が不十分でも、総責任者が必要に応じて主治医を指導・監督していた場合には責任を負わない」とした点はやや疑問です。総責任者の「指導・監督」の対象は、「主治医が行った説明が十分だったか」という結果まで及ぶべきです。でなければチーム医療治療を受けていた患者には、「何のためのチーム医療なのか」と納得できない思いがどうしても残ってしまいます。


 一般に,チーム医療として手術が行われる場合,チーム医療の総責任者は,条理上,患者やその家族に対し,手術の必要性,内容,危険性等についての説明が十分に行われるように配慮すべき義務を有するものというべきである。しかし,チーム医療の総責任者は,上記説明を常に自ら行わなければならないものではなく,手術に至るまで患者の診療に当たってきた主治医が上記説明をするのに十分な知識,経験を有している場合には,主治医に上記説明をゆだね,自らは必要に応じて主治医を指導,監督するにとどめることも許されるものと解される。そうすると,チーム医療の総責任者は,主治医の説明が十分なものであれば,自ら説明しなかったことを理由に説明義務違反の不法行為責任を負うことはないというべきである。また,主治医の上記説明が不十分なものであったとしても,当該主治医が上記説明をするのに十分な知識,経験を有し,チーム医療の総責任者が必要に応じて当該主治医を指導,監督していた場合には,同総責任者は説明義務違反の不法行為責任を負わないというべきである。このことは,チーム医療の総責任者が手術の執刀者であったとしても,変わるところはない。
 これを本件についてみると,前記事実関係によれば,上告人は自らB又はその家族に対し,本件手術の必要性,内容,危険性等についての説明をしたことはなかったが,主治医であるC医師が上記説明をしたというのであるから,C医師の説明が十分なものであれば,上告人が説明義務違反の不法行為責任を負うことはないし,C医師の説明が不十分なものであったとしても,C医師が上記説明をするのに十分な知識,経験を有し,上告人が必要に応じてC医師を指導,監督していた場合には,上告人は説明義務違反の不法行為責任を負わないというべきである。ところが,原審は,C医師の具体的な説明内容,知識,経験,C医師に対する上告人の指導,監督の内容等について審理,判断することなく,上告人が自らBの大動脈壁のぜい弱性について説明したことがなかったというだけで上告人の説明義務違反を理由とする不法行為責任を認めたものであるから,原審の判断には法令の解釈を誤った違法があり,この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。


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2007.08.07

平成18年の訟務事件の概況

 法曹時報59巻7号(19年7月号)より。 
 


Mailmaga2平成18年度の民事法務行政の歩み(法務省民事局)

 「平成18年末の司法書士登録者総数は1万8521人となっている。また同年末における司法書士法人の総数は195法人。司法書士の簡裁代理権について法務大臣の認定を受けたものは、平成18年度969名、総数は1万679名となっている。」

 つまり、平成18年度時点にて、司法書士の6割近くが簡裁代理権を付与されていることになる。

 「平成18年1月20日の筆界特定制度運用開始から平成18年度末までに約3300件の申請がなされて順調に運用されている。」

 不動産登記法等の一部を改正する法律が成立し、平成18年1月20日から施行されている。この改正法により筆界特定制度が導入された。これは、筆界特定登記官(法務局の担当官)が、土地の所有者等の申請によって、申請人・相手方らに意見及び資料を提出する機会を与えた上、外部専門家である筆界調査委員の意見を踏まえて、筆界の現地における位置を特定するものである。最近の法律相談でも、この筆界制度を使いたい、筆界申請がなされていきなり法務局から通知が来たがどうしたらいいか、というものが目に見えて増えている。

 筆界申請を申し立てる場合には法務局のパンフレットなどを参照するといい。

 筆界申請を申し立てられた相手方の場合、法務局から「意見聴取等期日通知」が送付され、資料提出や意見書の提出、そして意見聴取期日を指定した書面が送付される。資料には番号をふることが要求され、資料説明書(いわゆる民事訴訟の証拠説明書と全く同じもの。資料番号、資料の表示、作成者、作成日、資料提出の趣旨)の提出を求められる。
 従来の境界紛争の場合、専門家でない法律家が、裁判所に境界確定訴訟を提起するほかなかったが、この筆界特定制度の導入により、迅速かつ適正な特定を目指している。但し、筆世特定の結果に不満がある場合には、従来の境界確定訴訟を提起することができる。


Mailmaga2平成18年における訟務事件の概況(法務省大臣官房訟務企画課)

 100頁程度の枚数を使って平成18年の訟務事件の概況(国が被告となった訴訟の簡単な内容と結果)が記されており、参考になる。ただし、棄却判例(つまり自分の主張が認められた場合)に枚数をさいており、バランスを失している。読者としてはむしろ認容判例にこそ意味がある。

 例えば、B型肝炎の最高裁判決にいたっては、ページ数にして1頁しか記載がなく、余りに露骨というか、最高裁の影響力への敬意が足りない。薬害肝炎訴訟については、2頁程度さいているものの、大阪判決にしか記載がなく、責任範囲を拡張した福岡判決はあえて無視している。

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2007.08.04

家庭裁判月報(59巻7号)


Mailmaga2現住建造物等放火保護事件の保護処分決定(初等少年院送致)に対する抗告事件において、抗告を棄却した事例(名古屋高裁平成19年1月25日決定)

 養護学級に在籍する中学3年生が、学内での不安感・教師の叱責等からストレスを高めて、2店舗において放火を行った非行事件。少年には非行歴がなく、保護者が少年に愛情をもって接していることなどを考慮しても、要保護性は見逃せないと判断した。
 重大非行の場合、要保護性の高さが事実上推認されてしまう。裁判所としても事件の筋として施設処遇に傾きやすい。付添人としては被害弁償と要保護性の解消をからめながら、調査官・裁判官を説得していく必要がある。少年に軽度の精神発達遅滞があることからしても、十分社会内処遇も可能であった事案ではないだろうか。


Mailmaga2窃盗保護事件により保護観察決定を受けた少年について、後件の犯人隠避等保護事件の調査・審判を通じて身代わり犯人であったことが判明したため、裁判所書記官の報告に基づき、保護処分取消事件を立件した上、当該決定を取り消した事例(大阪家裁平成17年12月16日決定)

 少年は、友人をかばったり、非行事実についても警察の言われるがままに認めてしまう傾向が強い。このケースも、少年が親友をかばって原付窃盗事件の保護観察処分を甘んじて受けていたものの、その親友が少年の鑑別所入所を言いふらしたり、被害者から損害賠償請求がなされたことから、真実を述べるに至ったもののようである。なお、裁判所書記官が、窃盗保護事件の保護処分取消しに関する立件報告書を作成し、これに基づいて裁判官が立件命令を発している。


Mailmaga2離婚の訴えにおける別居後離婚までの間の子の監護費用の支払を求める旨の申立てと裁判所の審理判断の要否(最高裁平成19年3月30日判決)

 本最高裁は、「離婚の訴えにおいて、別居後単独で子の監護に当たっている当事者から他方の当事者に対して、別居後離婚までの期間における子の監護費用の支払いを求める旨の申立てがあった場合には、裁判所は離婚請求を認容する際に、人事訴訟法32条1項所定の子の監護に関する処分を求める申立てとして、その当否について審理判断しなければならない。」と判断した。

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2007.07.28

判例タイムズ(1239号)


Hanreit1239Mailmaga2上部内視鏡検査を受けていた患者が前処置としての局所麻酔(キシロカイン)の投与によりショック死した場合、担当医師らに問診義務違反、観察義務違反、救命措置義務違反があったとして、病院側の不法行為責任が認められた事例(福岡高裁平成17年12月15日判決・判例タイムズ1239・275)

 私も原告代理人の一人としてかかわった裁判。カルテの一部が破棄されているなど、病院側の対応に問題があると指摘し続けた事件。地裁はあっさりと原告の主張を排斥したが、高裁では原告側が申請した麻酔科医師の証人尋問を実施した上、逆転勝訴判決となった。被告は、キシロカインショックではなく脳幹部脳梗塞が死因であると主張したが、「その可能性はずれも単なる憶測や意見にすぎない。・・脳幹部脳梗塞を積極的にうかがわせる事情はなくむしろこれに疑問を生じさせる事情が認められる」と判断した。そして、カルテの一部が破棄されている点についても、「心電図モニターの記録用紙も紛失したとして提出されないばかりか、救命措置の時間的経過に関する客観的な証拠も全く提出されていない。・・このように救命措置の客観的資料を何一つ提出できないという事態は、現場の混乱ぶりを如実に示すとともに、何らかの不自然さをぬぐうことができないばかりか、本件訴訟における注意義務違反の立証に関する不利益を被告が負うべきである」と踏み込んだ判断を行った。
 キシロカインショックを巡る医療過誤訴訟は少なくなく、先例として東京高裁平成6年10月20日判決・判例タイムズ883・231、東京地裁平成5年3月5日判決・判例タイムズ883・238などがある。


Mailmaga2墓地使用権および墓碑等の承継者を原信販が被相続人の長男と定めたのに対し、抗告審が長女に変更した事例(東京高裁平成18年4月19日決定判例タイムズ1239・289)

 祭祀承継者について被相続人が指定しておらず、祭祀を主宰すべき者を定めるべき慣習も存在しない場合、家庭裁判所が定めることになる(民法897条)。祭祀承継者は、その性質上、被相続人と密接な生活関係・親和関係にあって、被相続人対する慕情、愛情を最も強く頂く者を選ぶべきとされる。
 本件は、長男ではなく、被相続人とは別姓の娘を承継者に指定した事例であり、事実認定と結論の導き出しが参考になる事例判決である。

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2007.07.27

判例時報(1967号)


Hanreij1964Mailmaga2飲酒運転事故の被害者に遷延性意識障害等の後遺障害(1級3号)が残った場合、加害運転手に対して総額3億円の賠償支払いが命じられた事例(千葉地裁佐倉支判18年9月27日判決判時1967・108)

 高額賠償を命じた裁判例でマスコミでも大きく取り上げられた。ただし、損害の算定項目はいたってオーソドックスなものであり、原告代理人の立証の成果に負うところが大きいのではないか。ついつい争いの激しい責任論にばかり力が入り、損害立証が薄くなることがあるが、その意味でも参考になる裁判例である。
 また、つい控えめな算定に終始しがちであり、「被害者の被害回復」という視点に欠けがちな裁判実務への問題提起としても意味がある。

 治療費  1570万6686円  入院雑費   44万8500円
 入院付添費 194万3500円  症状固定後の治療費 707万5775円

 治療費は原則として症状固定日までだが、その支出が医師の指示によるなど相当な場合には認められる場合がある(名古屋高判平成2年7月25日判決判時1376・69など)。

 休業損害 239万1868円  傷害慰謝料 350万円
 逸失利益 7244万1811円  後遺症慰謝料 3200万円

 通常後遺症1級の後遺症慰謝料は3000万円であるが、原告は3500万円請求。

 将来の付添介護料 1億3441万1340円  将来雑費 1556万4870円
 家屋改造費用 2370万円

 家屋改造の改築工事提案書を提出。その9割を認容。

 車両改造費  421万2313円  介護用品代 453万2876円
 介護ベッド代 80万4382円  車椅子代  121万0950円
 入浴担架代  96万3467円  空気清浄機代 28万7897円
 痰吸引機代 112万2119円 など。


Mailmaga2長年夫婦同然の関係にあった女性に対する所有不動産の一部の死因贈与が公序良俗に違反しないとされた事例(東京地裁平成18年7月6日判決判時1967・96)

 不倫関係を継続するための贈与や保険金受取人の指定は公序良俗に反すると解されているが(東京高裁判例平成11年9月21日など)、本件は、男性が自分の死亡後の女性の生活を案じて、事実上夫婦関係にあった女性に対して不動産を贈与したものであり、その動機・経過に照らして公序良俗に反しないと判断した。


Mailmaga2整理解雇が無効とされ、慰謝料請求が認容された事例(東京地裁平成18年11月29日判時1967・154)

 整理解雇のリーディングケースである東洋酸素事件(東京高裁昭和54年10月29日判決判時948・111)が示した4要件に従って判断した。つまり、整理解雇が有効となるのは、使用者において人員削減の必要性、解雇回避努力を尽くしたこと、人選の合理性を主張立証すべきである、労働者において、手続きの不相当性等使用者の信義に反する対応等を主張立証することになる。

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